◇日 時:令和7年10月14日(火)18時~18時50分
◇場 所:佐和山小学校コンベンションホール
◇参加者:民生委員児童委員21名
◇講 師:人権啓発指導専門員
◇内 容:
彦根市人権政策課の人権啓発指導専門員(元小学校校長)を講師に招き、「子どもの人権」をテーマとした研修が実施されました。子どもを取り巻く人権課題について理解を深め、地域での支援のあり方を考える貴重な機会となりました。
研修冒頭では、人権について考えるきっかけとして、「子ども読書の日」や「民生委員の日」、子どもの権利条約採択日である11月20日の「世界子どもの日」といった記念日が紹介されました。続いて、参加者への人権に関する問いかけや、無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)についての説明が行われました。
1.人権とは
人権の捉え方は、「自分には関係ない」「自分を守ってくれるもの」「空気のように大切なもの」など人それぞれですが、「幸せになりたい」という思いは共通していると説明されました人権とは、本来、基本的かつ固有の権利であり、絶対的に尊重されるべきものであると強調されました。
しかし、私たちは無意識のうちに他人を傷つけてしまうことがあります。人権に関する知識不足、コミュニケーション不足、そしてアンコンシャス・バイアス」(無意識の思い込みや偏見)が、人権問題を引き起こす要因となりうることが指摘されました。

2.子どもの人権について
子どもの人権問題としては、虐待、体罰、いじめ、インターネット被害などが挙げられます。特にいじめは根絶が難しいものの、早期発見・早期解決が重要であるとされました。現代の家庭環境の変化により、家庭だけでは対応しきれない子育ての課題が増加しており、地域全体での支援が求められています。

アンコンシャス・バイアスは、性別(「保健室の先生は女性」「手芸は女性が行うもの」といった決めつけ)、年齢(「高齢者は頭が硬い」など)、国籍(「外国人は日本語がわからない」など)といった、多岐にわたる場面で生じると説明がありました。講師は、手芸サークルに男性が参加している例を挙げ、決めつけをなくすことで自身の可能性も広がると解説しました。
また、女性、高齢者、障害者、外国人、そして性的マイノリティ(LGBTQ+など)の人権についても触れられました。特に性的マイノリティについては、職場で性的アイデンティティをカミングアウトした同僚への対応事例を交えながら、理解と受け入れの重要性が強調されました。トイレや更衣室の問題など、具体的な課題を乗り越えるためには、当事者の声に耳を傾け、研修などを通じて全員の理解を深めることが不可欠であるとされました。性的マイノリティは病気ではなく、その人の生まれ持った特性であることを理解し、尊重することが求められます。
3.子どもの権利条約について
子どもの権利条約は、国内法より上位に位置する国際的な取り決めであり、日本を含む世界のほとんどの国が批准しています。この条約は、子どもを「権利の主体」と位置づけるものであると説明されました。子どもは大人に守られるだけの存在ではなく、無条件に人権を持つ一人の人間として尊重されるべき存在と規定されています。
条約の原則には、差別されないこと、子どもの最善の利益を優先すること、生命が守られること、そして子どもの意見が尊重されることが含まれます。講師は、子どもの気持ちをしっかりと聞き、尊重することが非常に大切であると強調しました。
4.子どもの基本法について
子どもの権利条約の理念に基づき、日本で制定されたのが子ども基本法です。従来の児童福祉法が「支援やサービス」の提供に重きを置いていたのに対し、子ども基本法は国や地方自治体、親が子どもに対して負う「責任」を明確にし、子どもを取り巻く問題を包括的に捉えて取り組むことを目的としていることが説明されました。
この法律が制定された背景には、いじめの重大事態の増加、不登校児童生徒の増加、10代の死因の第1位が自殺であること、子どもの相対的貧困、児童虐待件数の増加、そして子どもの自己肯定感の低さといった深刻な社会課題があることが挙げられました。
講師は、子どもの自己肯定感を高めるためには、「ダメ」という否定的な言葉を多用せず、「ありがとう」という感謝の言葉を積極的に伝えることが重要であると説きました。普段当たり前と思っていることに対しても感謝を伝えることで、子どもは「自分は役に立っている」と感じ、自尊感情を育むことができます。
また、「普通はこうするべき」「こうあるべき」といった無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に注意し、コミュニケーションを通じて多様性を認め、尊重することの重要性が繰り返し強調されました。

5.研修のまとめと参加者の感想
研修のまとめとして、回数や時間にこだわるのではなく、参加者自身の意識変容のきっかけとなることに意義があるとし、年齢や世代を超えて思いやりを持って人と接することの大切さが強調されました。
参加者からは、「人権教育が細部(木)にこだわりすぎて全体(森)を見失っているのではないか」「『思い通りにならないと人権が侵害されている』という捉え方には疑問がある」といった意見や、「インドでは児童労働が依然として深刻であり、消費者はその現実を知るべきだ」という指摘がありました。
また、今後施行される「LGBTI 理解増進法」に基づく子どもへの教育について、幼少期や思春期の子どもへの性に関する教育は非常にデリケートであり、慎重な対応が求められるとの懸念も表明されました。
最後に、人権の主張は他者の人権と重なり合う部分があり、ゼロか100 かではなく、お互いに「折り合い」をつけることが重要であるというまとめで締めくくられました。
